表現の産地を目指して

中川直幸
寺町京極|商店街美術館プロジェクト コーディネーター、ことくらす合同会社 / まるごと美術館キュレーター

「寺町京極|商店街美術館」プロジェクトでコーディネーターを担当している中川直幸と申します。私は、地域×アートのプロジェクトを地域活性化の目的でいくつか行っているのですが、最近は、実行と実装という言葉の違いをよく考えてプロジェクトに取り組んでいます。「実行」は言葉の通り実際に行うこと、「実装」は何かしらの役割を担っている状態です。つまり「社会実装」とは、社会で何かしらの役割を担って機能している状態といえます。 様々なプロジェクトにおいて比較的ハードルが低い「実行」に対し、「実装」の達成はかなり難しいのではないでしょうか。なぜなら、社会で機能していくためには、その場だけで完結しないことはもちろん、一方的に外部へ協力や繋がりを求めるのではなく、外部からも同様に必要とされなければならないからです。 ただ、実装されたプロジェクトは社会の歯車として機能しているため、簡単には揺るがない強さが生じ、活動を安定して成長させるはずです。ですから、「社会実装」を意識することはプロジェクトを継続していく上でとても重要です。 商店街であれば、人の暮らしが豊かになるもの(サービスを含む)を提供する場を作る役割があり、それが機能しているかどうかは、そこに訪れる人の多さで可視化されます。 では、今回の「寺町京極|商店街美術館」の「学生×パブリックアート」のプロジェクトで目指す「社会実装」とは何なのか。 まず、多くの人が行き交う公共空間で作品を発表するという経験が、学生たちの表現者としての歩みをより豊かにする一助になること。このプロジェクトでは「次代の表現者の初期の代表作となるような作品」を募り、資金面や展示に際しての技術面を含め完成までサポートします。 次に、寺町京極商店街がより魅力ある場所になるということ。彫刻、メディアアートという限られた分野だけでなく、建築や工芸など様々な作品を展示します。現代アートなら現代アートだけ、写真なら写真だけと、一部に特化せず、対象を表現全体に広げているのは、商店街が本来持っている多様性にならってのことです。 そして最後は、社会における表現の産地のようなものになること。広い分野から次代を担う表現者を見つけ、サポートしていく。「寺町京極|商店街美術館」で展示した作家がそれぞれの専門分野で注目される機会を得ることで、早い段階から、より豊かな表現活動へつながっていくと思うのです。各分野で話題になれば、商店街にもまた変化が訪れ、さらなる多様性に繋がっていくでしょう。 初回となる今回も、消費経済と文化芸術の交点のプロジェクトだからこそできる、純粋なアートだけではない社会の様々な可能性を示唆する作品を展示しています。多様性に富んだ次代を想像しながら作品を鑑賞いただけたら幸いです。

作家紹介

SUTUDENTs×TERAMACHI KYOGOKU SHOPPING STREET
PUBLIC ART PROJECT
前期:2023年10月3日-11月28日
後期:2023年12月1日-2024年1月21日